アイラブテトリス③
夏休み、子供は鈍行列車に乗って遠くに住んでいるおばあちゃんの家へ遊びに行くことになった。
列車内。最初は車窓の風景を見たりしてわくわくしていたのだが、そのうち、大きな誤算をした事に気付いた。
しまった! 暇つぶしの道具を何も持ってきていない!
目的の駅は、まだまだまだまだ先。お菓子を食べて過ごすだけでは、とても持ちそうにない。しかもこんなときに限って、ぜんぜん眠くならない。何も持っていないことに気付いてしまった後の時間は長い。10分経ったと思ったら、まだ5分しか経ってない。
これは、ヤバイ。
今の子供にとって、長時間何もせずに座ってなきゃならないこと。これはもはや恐怖。冷や汗が出そう。
子供は祈る気分で自分のカバンをまさぐった。すると、奥のほうに覚えのある感触が。引っ張り出してみると、何と失くしたと思っていたテトリスだ! ずっと使ってなかったから、まだ電池も残っている。(TヮT)助かった・・・
子供は久しぶりにテトリスで遊んだ。正直テトリスに感謝した。愛してるよテトリス。
「都合のいいときだけ態度がころっと変わるのね」・・・夢に出てきたテトリスに何か言われた気がした。
それでも、テトリスは自分の危機を救ってくれた。
駅に着くまでの長い時間、子供は存分にテトリスをやって、対戦するための腕を磨いた。久しぶりだったけど、時々良いスコアが出た。
おばあちゃんの家にはいとこがいた。二人でスイカを食べたり海で泳いだり花火をやったり、新しいゲームをやったり、テトリスで対戦もした。
帰りの新幹線では何時間もテトリスをしていたら、いつの間にか降りる駅になっていた。
なんとなく、テトリスとの付き合い方が分かってきた。自分の中に占めるテトリスの位置が意味すること・・・とり憑かれて遊ぶんじゃなくて、こうやって遊べば、テトリスはかけがえのないもの。
とり憑かなければ(とり憑かれなければ)、テトリスはステキな人生の伴侶。
だから、もっと大切にしなくちゃ。
子供はテトリスをなくしたり踏んづけたりしないように、遊ばない時は専用の箱に入れて、大事に学習机の一番上の引き出しにしまった。開ければすぐに目に入る所に。
時々ボタンに手垢が付いたら、きれいに拭いてあげた。お菓子を食べてベトベトの手ですぐさわるのは、やめた。
それ以来、子供はテトリスにうなされることはなくなった。
テトリスは、子供にとり憑いてまで遊ばせるのはやめた。そんなことしなくても、自分に誇りが持てるようになったから。いつでも遊べるように、子供のすぐそばでスタンバイしていることで、満足だった。それこそが、「携帯用テトリス」にしか出来ないことだから。
子供が友達と外へ遊びに行ってる時は、同じ引き出し内の仲良くなった「トランプさん」や「チョロQ君」や「シャア・アズナブルさん」とお喋りするから、寂しさも和らいだ。
テトリスは、居場所を得た。
子供は2学期に約束していた友達とのテトリス対戦を楽しんだ。勝負は負けちゃったけれど、もちろん今でもテトリスは好きなゲーム。
振り回されるほどハマることは決してないけれど、シンプルで単調だから飽きが来ないので、大事に遊んでいる。旅行のときは必ず連れて行く。
カゼを引いて学校を休んだときは、「寝てなさい」と口うるさいお母さんに秘密で、ベッドでこっそり遊べる数少ない遊び。
二人は幸せだった。時が満ちれば、いつでも子供のお遊びライフを一緒に作る。時が満ちれば、いつでも自分の価値を発揮できる。そのときになれば、いつでもどこでも楽しめる。そんな上手な付き合い方を覚えたから。
歴史は語る。『ここに、テトリスの位置と方向性は、定まった。』
テトリスは語る。
「だって、私はあなたのテトリス。大事にしてくれるなら、二人でステキなことがいつでもどこでも出来る。
飽きずに大事に遊んでくれるなら、毎日長い時間遊ばなくても許してあげる。その方が、私は長持ちするから。」
そう。子供が大きくなって一人暮らしを始めたときも、テトリスは一緒に旅立って行った。
『病める時も健やかなる時も その身が滅ぶまで・・・』
オワリ
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