人間を楽器に例えた恋の話②
タンバリン・・・別に大きな音が出るわけでもないし、ショボくて安っぽい音しか出ない。時々サルが振り回して芸をしている程度の楽器。しかも、彼はサインペンで落書きがされていて、カッコ悪い。
竪琴はタンバリンのことを何とも思っていなかったし、考えたことも無かった。むしろ、もしもアプローチされたらウザイだろうな。
自分で音を出したり演奏したりすることを楽しむこともなく、かといって今のところ合奏したい楽器が要るわけでもなく、竪琴はつまらない日々をすごしていた。そんな日々の気晴らしは、友達のリコーダーや木琴とおしゃべりをすることだ。
ある日、3人の間でこんな会話があった。
木琴「ねえ竪琴。タンバリンのこと、本当に何とも思ってない?」
リコーダー 「そうそう。恋人がいないってぼやいてたでしょ? タンバリンなら今チャンスだから、すぐ付き合えるよ」
竪琴「タンバリンは・・・あそこまでレベル下げるのはちょっと・・・まだプライドは捨てたくないな。その場しのぎにあの楽器でいいやって我慢しながら付き合うなんて、バカバカしいし。」
竪琴は普段自分で自分のプライドを傷つけていたので、その反動で無意識のうちにプライドが高くなることがある。本人は気付いていないけれど。
リコーダー「やっぱ安い教材楽器か猿回しのイメージになっちゃうんだ」
木琴「でもさ、あの軽い“パン”って音と一緒についてくる“シャラン”っていう音がちょっとイイなーって思っちゃうことあるのよねー。横についてるリボンもなんかカワイイし。確かに重低音でもなければ音も大きくないし、リーズナブルな楽器だけど、“軽い音でもリズムはしっかりとってくれるところ”なんかは竪琴には合うんじゃないかと思ったんだけど、その気が無いんじゃしょうがないか。私、今付き合ってるハーモニカがいなかったら、ちょっとだけ気になってたかも・・・」
リコーダー「竪琴って凄く繊細で澄んだきれいな音だし、私と違って和音も出来るから、せっかく音を生かすなら相手の楽器はあんまり派手なヤツじゃない方がいいかもね。澄んだ音色となら、軽くてシャランとした音でリズム取るといい感じになりそう。」
木琴「竪琴の音って大きくないし繊細なのに、音色に独特の雰囲気があるから、ポロンって弾くと、その場の雰囲気変わるよね」
リコーダー「そうだね。例えば私はどっちかって言うと自然界の音に近いから、鳥の鳴きまねとか風音のまねは出来るけど、その場の雰囲気を変えることは出来ないもの。それって特技だと思う。」
竪琴「二人とも、私なんかほめたって何にも出ないわよ。お世辞言うならもっと役に立ちそうな相手に言わなきゃ(笑)」
木琴「別にお世辞言ってるわけじゃないわよ。・・・この前のドラとか言う楽器と付き合ってた時は、せっかくの音がかき消されちゃってて見てられなかったわ。」
リコーダー「うん。あれはヒドかった。何で気付かないんだろうと思った。もっと自分の楽器を大事にした方がいいよ。」
竪琴「あの頃の話はヤメて; 思い出したくないんだから・・・そっか、私って、そういう音でもあったんだ。」
木・リ「え、気付いてなかったの?」
・・・そんな会話を友達と交わしてからというものの、竪琴はもう一度自分を見つめなおすために、一本一本の弦を意識しながら自分の音を出して確認してみるようになった。自分の音を聞いて観察して、感じたことや新しく気付いたことをノートにメモした。ポロンポロン・・・単音では澄んだ涼しいイメージの音。和音にすると逆にあたたかい雰囲気にもなる音。
確かに自然界にはあまり似た音が無いせいか、聞こえればすぐに竪琴の音だと聞き分けることが出来るかもしれない。反面、他の音と似せた「モノまね」は出来ない。効果音ではなく、あくまでBGMの領域。例えば水の流れをイメージさせる演奏は割と向いているみたいだ。効果音としてではなく、音楽として。
今までダイナミックさが無いから楽器としては不十分だと思っていたけど、これはこれで一つの楽器として機能するのかもしれない。
竪琴は少しだけ、前より自分が分かったような気がしてきた。
それから、タンバリンの音。意識して聴いたことが無いからあまりピンとこないけど、確かに私の音にリズムを加えるなら、あまり大きくなくて軽い音の方が・・・いや、だからってタンバリンの音が私と合うとは・・・
ある日、どんないきさつか手違いか、竪琴とタンバリンが何故か同じ箱に入れられて運ばれるという出来事が起きた。
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