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2006年3月29日 (水)

人間を楽器に例えた恋の話④

繊細な音だけれども、しっかりとしたメロディーラインを竪琴が紡ぎ出し、その響きの中へタンバリンが2種類の音を巧みに操って旋律に合わせたリズムをつけ加えた。竪琴とタンバリンが奏でる音は統合され、それ自身が一つの独立した生き物のようになった。二人が演奏することで初めて生まれた音が、自分達のすぐそばで鼓動を始めたみたいだった。いや、むしろ、「二人で一つの心臓になった」みたいだ。互いの音が、演奏が、生きていた。
二人の初めての演奏は、とてもスムーズで自然な感じに終わった。音の相性も、大げさに言えば「昔は一つの楽器だった」ような気さえした。いつの間にか二人とも気負わないでリラックスして演奏していた。前からやっていたみたいに。初めてのセッションは、単なる成功どころの話ではなかった。
ドラとの破壊的セッションしか知らなかった竪琴にとっては、今まで自分のやっていたことは何だったんだ、という気分だった。
タンバリンからみても、竪琴とのセッションは今までに体験したことの無い、新しい自分を知る喜びだった。自分の音が、竪琴と共にあの素敵な演奏を生み出したんだ。 イマイチと思っていた(思われていた)自分が。
ああそうか。きっと自分のどこかで何か予感がしたから、あの時大胆にもリズム伴奏の話なんか出来たんだ。

この一件以来、二人はその後も時々セッションをするようになっていった。

竪琴は、自分の楽器としての可能性や価値を徐々に理解していった。発見していったというべきか?
もっと自分を知るために、もっと可能性を探るために、竪琴は一人で弦を爪弾く時間を作るようになった。
いい演奏がしたい。私の普段の音や演奏がもっと良くなれば、セッションの時も更にいい演奏が出来るか知れない。自分の音と演奏にある程度納得出来れば、タンバリンを加えてもきっとうまくいく。そうすれば、いつかは自分自身のソロ演奏と、タンバリンとの合奏。「いい演奏」が2種類つくれるかもしれない。
そう・・・タンバリンの伴奏がないといい演奏が出来ないとは思いたくない。むしろ、私の演奏を喜んでくれたタンバリンに、もっといい音を聞かせたい。

互いに楽器の利点や弱点を探し合い、工夫や試行錯誤を根気良く続けていくうちに、竪琴はタンバリンのお陰もあってエキゾチックで情熱的な雰囲気のダイナミックな曲も弾くことが出来るようになった。自分なりの表現手段で「ダイナミック」というものをついに引き出すことが出来たのだ。 あれほどコンプレックスを持っていた「ダイナミック」は、音に限定されるものじゃなかったらしい。
そのことに自信を付け、竪琴は自分で価値を否定していたソロ演奏も積極的に手がけるようになった。それを聞いてタンバリンは感動したし、自分ももっとがんばってみようという気分になった。

そしてタンバリンも竪琴のお陰でやる気が出たからなのか、自分の可能性を切り開き、自分の力をもっと有効に使うことが出来ることを知った。タンバリンのリズムだけで、ダンスの伴奏をするという挑戦に、成功した。さらに、ダンサーがタンバリンを持って踊ってみると、リズムと一緒にリボンが翻り、周囲の金具がきらっと反射して、そのときのタンバリンはカッコよかった。

あるとき竪琴が、独り言のようにタンバリンに寄り添ってつぶやいた。
「私、昔からずっと自分に自信がなかったの。自分に価値が無いと思ってたから、そんなコンプレックスを反映して、自分の音とは一つも接点の無い、縁のない種類の楽器にしか興味が無かったし、それ以外の楽器なんて何の魅力も感じなかったし、楽器として大したこと無いと思っていたの。そして、“たいしたこと無い楽器”の群れから抜け出したいコンプレックスで演奏相手を選んだ。・・・結局セッションはめちゃくちゃ。私はその全てを相手のせいにして、“私を本当に愛しているなら、相手が私に合わせて自分の音をなんとかするべきだ”なんて思ってたわ。傲慢よね・・・。「その楽器を生かす」ことも愛なのに・・・そういう意味では私、自分も他人も、誰も愛していなかった。前の恋人とのセッションが壊滅的で、その後あなたと出会ってから、ようやくそんな自分に気付いたの。
もしも、私が昔から自分のことを良く分かってて、傲慢でも無ければコンプレックスも無くて、自分にそれなりの自信があったとしたら。それでもあなたと出会ったとしたら。
・・・やっぱり私は、あなたを好きになったと思う。」

二人のセッションは、やがて他の楽器達からも羨ましがられるものになった。周囲の反応より何より、二人はただ演奏しているだけで幸せだった。互いの楽器と、演奏と、そこから生まれたセッションを愛していた。自分の楽器を愛していた。そんな愛する幸せを相手と共有していることが幸せだったので、そのことを愛していた。
「そんなあなたの幸せが愛しくて私は幸せで そんな君の幸せが僕は愛しくて幸せで・・・」
無限に続く呪文のような共鳴を二人は歌っっていた。
二人は結婚し、やがて二人の間に生まれた子供達も加わって音楽ユニットとして演奏活動をした。それぞれが家族で、愛する人と二人で、親子で、或いはソロで、自分の喜びと幸せを奏でた。子供達は独り立ちすると、両親と同様にセッションパートナーを見つけて可能性を広げた。或いはソロで自分の可能性を広げた子供もいる。
竪琴とタンバリンはその後の人生も更なる喜びと幸せを奏でて、奏でて・・・
・・・やがて二人とも、ある日大往生を遂げた。


♪おしまい♪

動画版できました

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