人間を楽器に例えた恋の話①
ストーリー本文
主人公は竪琴。彼女はドラやエレキギターやパイプオルガンほど大きな音は出ないが、繊細な音色の持ち主だ。
けれども竪琴は、自分を他の楽器と比べては、自分を低く評価してばかりいた。
私は原始的な遅れた楽器。私はシンバルやエレキギターのような大きな音が出せなくてダメな楽器。パイプオルガンのように重厚な音色で幅広い音階を持っていないからダメな楽器。ドラムのような重低音を出せなくてダメな楽器。ハープシーコードとは少しだけ似ているけれど、音階の幅では劣っている。ピアノと比べても(以下略)。
・・・私は「ダイナミックさ」のかけらも無い、ダメな楽器。
いつしか竪琴は、否定的な方に偏った自己認識を持つようになった。とても正確な認識とはいえない。自分という楽器がどんなものかを正確に把握出来ていないので、自分の楽器としての可能性を探ることが出来ず、「自分には楽器としての可能性も演奏する価値もない」と考える時さえあるようになった。
竪琴は積極的に演奏したり、前向きに音を出したりする意欲がいつまでも湧かないまま、自分の本当の姿も、そこから見えてくる価値や可能性も知らないままだった。その前に切り捨ててしまったから。本当は「価値も可能性も無い」じゃなくて「価値も可能性も判っていない・作り方がわからない」ということに気付かなかった。
ある日竪琴は、自分よりもずっと大きくてダイナミックな音の出るドラに恋をした。ドラの出す音が魅力的だった。どっしりと存在感があり、力強く、頼もしい・・・見た目もピカピカでカッコイイ。
竪琴は魅力的な音のドラと一緒なら自分もよい演奏が出来ると信じ、初めて自分を積極的に奏でる意欲が湧いて来た。
竪琴は、自分に自信はないけれど、思い切ってドラに告白した。
ドラは竪琴の澄んだ繊細な音色に惹かれ、二人は付き合い始めた・・・
けれども、ドラと竪琴の相性はとんちんかんで、二人のセッションは失敗だった。竪琴の演奏ジャンルはそもそもドラには不向きだったし、逆もまた然り。ドラの音は竪琴の音を掻き消してしまって、竪琴が何を演奏しているのかさえ最後までわからずじまいだった。互いが互いの個性を否定しあう(お互いを傷つけあう)セッションを繰り返し、二人は喧嘩別れした。
竪琴は思った。私と相性のいい楽器は何だろう? 私は楽器として不十分だから、単独(ソロ)で演奏したってダメなのに・・・
竪琴はドラの本当の個性や、楽器としての特質を知らなかった。ただドラが一緒に居てくれれば、自分もよい演奏が出来ると信じていたから、正直ドラには裏切られたような気分だった。
まさか曲のリズム伴奏をドラに担当してもらったら、あんなにダメな奴だったなんて。あんな破壊的な轟音出したら、私のパートはどうなるのよ。私の音をまったく無視して、自分の音とパートだけしか考えてないじゃないの。それを都合よく棚に上げて、「お前の音が小さいんだ何とかしろ」ですって? 私の一番気にしていることを・・・自分の音を何とかするべきでしょう! 自分は悪くない、みんな私が悪いと思ってるんだわ。
アイツは自分のことしか考えてない。私の音なんか見向きもしない。
相手のことなんか、都合のいい道具程度にしか思ってないのよ。
その時、竪琴の心のどこかが囁いた。
『それは、私もおんなじだ。同じなんだ』
・・・あんな奴に恋をして付き合った自分も、ばかで大嫌いだった。
竪琴はそんなことを思う夜に、ポロンと小さな音を立てて、保管ケースの中で一人涙をこぼした。
そんな時、タンバリンが竪琴のことを好きらしいという噂が彼女のところまで流れてきた・・・
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