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2009年12月21日 (月)

ある楽器の話

昔々あるところに、自分の音を生かせる曲がなかなか見つからずに困っていた楽器がいました。どんな曲を演奏してみてもイマイチで、無理して弾いても辛いだけで全然楽しくないし、そもそも音色が曲の雰囲気をぶちこわしていました。
「はぁ・・・私に合う曲どっかないかな・・・まともに聴ける音楽を弾かなきゃいけないのに・・・今まで弾いてきた曲がダメだったのは、上手に弾く努力が足りないのかな」

楽器は自分に対しても聴衆に対しても心地よい音楽を演奏できない自分を責めてばかりいましたが、どんなに自分を責めても問題は解決しませんでした。 責めても解決できない自分を責めました。
自分の音を十分生かせる日なんて来ないのかもしれない。もしかしたら自分は楽器として可能性の無い欠陥品なのかも。私みたいな楽器がなんでこの世に生まれたんだろう。などと心配していました。
そんな風に悩んでいると、見知らぬ怪しい人がやって来ました。
「お前の居場所この世界にねえから!」なんか突然物凄い勢いで突き飛ばして来ました。
気持ちが悪いのであわてて逃げました。
ふと、新しい楽器の登場につれて音楽の世界も広がり発展してきたことを思い出しました。
「そうだ。それなら自分で作曲すればいいんだ」
そう考えると、やがてふつふつとアイデアが浮かんできました。アイデアを試行錯誤した結果、その楽器は1つの曲を作ることが出来ました。曲のジャンルは以前から存在した音楽ジャンルに分類できるものでしたが、その楽器の音色を巧みに使う曲は今まで存在していませんでした。 音楽の世界が1曲分広がりました。
その曲を演奏するととても楽しくて、聴衆も喜んでくれました。今までになく自分の音を生かすことが出来たので、大満足でした。自分の使い道が1つ分かって自分という楽器に前よりも自信がつきました。
その楽器がこの世に生まれたのは、その音を生かす方法がこの世で実現できる証拠かもしれない。そう思ってみると幸せでした。

「自分を生かせるのは、この曲なんだ。こんなに自分を生かせる曲は、他に無いよ!」
自分がこの世で幸せになれるのは、この世でこの曲一つだけ!
この曲だけが私そのもの!
そう思って四六時中その曲だけ演奏して過ごしました。
「あ~・・・幸せ♪」
そう思って四六時中その曲だけ演奏して過ごしました。
「あ~・・・幸せ♪」
そう思って四六時中その曲だけ演奏して過ごしました。
「あ~・・・幸せ♪」
そう思って四六時中その曲だけ演奏して過ごしました。
「あ~・・・幸せ」
そう思って四六時中その曲だけ演奏して過ごしました。
「あ~・・・幸せ」
そう思って四六時中その曲だけ演奏して過ごしました。
「あ~・・・幸せ」
そう思って四六時中その曲だけ演奏して過ごしました。
「あ~・・・・・・飽きた。」

未曾有の事態が発生しました。あんなに幸せだったあの曲が、今は・・・
「でも自分の音を生かせるのはあの曲しか・・・弾いて幸せだったのはあの曲だけだった・・・」
あの曲を幸せに思えなくなったら、他に幸せになれる曲がなんにもありません。自分の音を生かせる曲が見つからなくて困っていたころに逆戻りするんじゃないかと心配でした。
「また可能性の無い欠陥品の気分になんかに戻りたくないよ~」
「あの曲が楽しかったのは気のせいだったの?」
「あの曲しか自分を幸せにしてくれないのに飽きるなんて、前世で何か悪い事でもしたのかなー」
そんな風に悩んでいると、また怪しい人がやって来ました。
「あなたは先祖の霊に祟られている。この墓石を買えば(略」
あわてて逃げました。
「はぁ・・・またあの曲が幸せに思える方法は無いかな・・・昔の自分に戻らなくちゃいけないのに・・・」
あの曲を弾くのをやめてから、楽しいことがちっともありません。
違う曲を作ってみようと試してみましたが、音階が限定されたメロディは既に聞き飽きていて、面白いアイデアが浮かびません。

ある日の夜、眠っていた楽器は夢を見ました。
楽器は階段を登っていました。ステップを1段上がるごとに低音から高音に向かって自分の音が出ていきました。8段目までが自分の持っている音でした。階段はそこで途切れていました。
でも、楽器は何故かもっと上に行きたくて仕方ありませんでした。お空はあんなに高いのに・・・
そこへ、音符の形をした精霊がやって来て言いました。
「何かご入用ですか?」
楽器は言いました。
「階段をもっと上に登りたいんです。」
「ふむ。階段を上へ。・・・となると、あなたの新しい音が必要ですね。どんな音が出せるようになりたいですか?」
「もっと高い音がいいです。」
「どの程度の?」
「うーん・・・そうだな・・・今の私の倍ぐらい高い音!」
「鼻歌でいいんでその音のイメージ歌ってみて下さい」
「えぇ? ・・・・こうかな・・・♪♯♭~」
「はいわかりました。音声を階段に変換します」
見る見るうちに、階段がもう8段増えていきました。
「登ってみてください?」
・・・♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
「おおおおお! こういう音欲しかった!」
「歌えるってことは、気付かなかっただけで本当はその音前からあなたの中にあったんですよ。これであなたの使用音域は1オクターブ分バージョンアップしました」
「ありがたき幸せ~」
楽器は音符の精霊に土下座しつつもみ手をしてすり寄りました。
「もっと沢山増やせませんかね?」
「今歌えますか」
楽器は歌おうとしましたが、うまく声が出ませんでした。
「新しく増やした音使って曲が弾けるようになったら、経験値が上がってまた歌えるようになりますよ」
「新しく手に入った音だけで曲作ればいいんですか?」
「いや、そうじゃなくてw あなたが持ってる音全部好きに使っていくらでも自由に弾いてください。昔みたいに自由にね」
音符の精霊は似合わないウインクをしてどこかへ飛び去っていきました。

次の日。目が覚めると楽器は自分の体が少し大きくなっていることに気がつきました。
自分が前に作った曲を進化させるべきか、それとも違う曲を作って曲のレパートリーを増やすべきか・・・他の楽器と合奏曲やるのは? 以前ダメだった曲を高音部で自分らしく弾いてみようか・・・そういうのを全部やろうか・・・今はまだ何も思いつかないけど、いつか必ずいいアイデアが浮かんでくる。私は楽器で、世界の一部で、世界を広げる者のひとりだから。
楽器はそのことを知っていました。

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