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2008年8月21日 (木)

『崖の上のポニョ』とカタストロフィ

※以下は個人の感想・解釈です。

『崖の上のポニョ』を見た。ポニョの樹木希林とトトロやメイを掛け合わせた魚顔がめちゃくちゃ可愛いと思うのは私だけだろうか? そして宗介は本当に「よく出来た子」だ。私なんか足元にも及ばない。絵は相変わらず美しい。
ストーリーやキャラクターについての感想は他のブログでいくらでも書かれているだろうから、メインは心理学的、象徴的な視点による『崖の上のポニョ』の個人的解釈にしようと思う。(読者の脱落率90%)
まず、この作品のテーマは他のいくつかの宮崎作品同様、新たな可能性の世界へ向かうための「破壊と再生」だろう。宮崎監督曰く、この作品で「初源なるものをためらいなく描いて、不安と神経症の時代に立ち向かいたい」という意図があったそうだ。

ということだから、遠慮なく心理学的なシンボルを用いてこの作品を解釈してみる。まず「水」は人の精神発達・精神活動のスタート地点である無意識の象徴。そしてそこにとけ込んだものの象徴でもある。そして水が最終的に集まる場所、「海」は集合無意識の象徴。そして「魚」は無意識の領域に住み、普段は水の外へ出ない(意識の領域へは出てこない)存在。しかし確かにそこに存在し、稀に跳ね上って一瞬水面の上(=地上)に飛び出す。そしてある特別な条件がそろった時、水の外の世界から抜け出し、一瞬ではなくずっと地上世界(顕在意識の領域)の住人になる。
無意識にいるはずのものが意識の領域に浮上し、そこにとどまり続ける。それはどんな条件の時に起きるかと言うと、

①:「意識化すべきものが何らかの理由で無意識領域に強く抑圧されていて、そのために心が緊張し可能性(先行き)が行き詰っている時」。
②:「可能性を広げるためには解放・浄化すべき問題が何らかの理由で無意識領域に閉じ込められ抑圧され、鬱屈の限界が来ている時」。

その条件下におかれた時、心は抑圧された部分を本能的に「外へ出したい(意識化したい)」とそれこそ心から切に思うようになる。そして「抑圧する側」との間に葛藤(戦い)がはじまる。本能からの・心からの思いは強いエネルギーを秘めているので、抑圧側との戦いはとても激しくなる。そして大概は抑圧側の隙を衝いて「抑圧されてきた側」が勝利する(ある宗教はそれを『ハルマゲドン』と呼んだかも)。そのエネルギーは抑圧や障害を乗り越える力になる。
①と②はそのまんま人が神経症に陥る時の心理的環境といえる。「自分の何かを必要以上に押し殺している」時、神経症は起こりやすいそうだ。そうなったら確かに不安だろう。けれどもそれは、「行き詰まりの打開」「鬱屈の浄化」「抑圧からの解放」のチャンスでもあるわけだ。不安の正体を知れば、怖くない。
重要なことは、「抑圧してきた意識化すべきものの真相と向き合い、拒絶せず受け入れること」。すると神経症は回復に向かう。その過程で、時には無意識にとけこんだものを出す機能のある「涙」があふれ出すかもしれない(あれも海水みたいなものだ)。また、「意識化すべきもの」は時にアニマ/アニムス(理想の異性像)の姿で夢の中に現れる(宮崎監督のアニマは少女の姿をしているのだろう)。

さて、以上のことを『崖の上のポニョ』に照応させると、「抑圧する側」はポニョを元の海へと一旦は連れ帰ったフジモト。無意識領域、それも集合レベルの無意識領域からの脱出を心から望んでいる「意識化すべきもの」はポニョだ。ポニョは抑圧の隙を衝いて浮上を決意。するとポニョを乗せた無意識(=水)が地上世界(顕在意識領域)に向かっていっきに膨れ上がり、溢れ出す。地上世界(街)は溢れ出した水で覆われる。
そして地上世界へ浮上してきたポニョという「意識化すべきもの」に気づき、その真の姿を知り受け入れた地上世界の住人、宗介・・・例え意識化すべきものが己の醜いとされる部分であっても、押し殺さずに受け入れ認めることは、一種の愛。
この「抑圧の隙を衝いて無意識領域から地上世界へ浮上し移住すること」は主体となるポニョ一人の力で行われたものではない。まず宗介の愛、同じ海に住む無数の妹達の協力、ポニョの母親である「海の女神」の説得と後押し、そしてとうとう納得した抑圧側のフジモトが「作戦」を実行したからこそ成功したものでもある。しかも、恐らく集合無意識の象徴である「海の女神」は最初から何が起きるか予想できていたのだろう。ポニョが地上の迷惑を考えず津波と共に猪突猛進に宗介の元を目指したのは、それがポニョのみならず集合無意識全体の意志、すなわち「破壊と再生」が不安と神経症を抱えた時代とそこに生きる者達の意志だったから。その証拠に、誰も津波を嘆かず、ポニョを恨み裁くこともなく、むしろすんなり状況を受け入れている。

この作品は、「不安と神経症の時代に立ち向う」ための「集合無意識規模での鬱屈浄化」を描いているようだ。
無意識世界を象徴的に描いたものだけに、ストーリーは睡眠時の「夢」のように論理的整合性が怪しい。だから観客の意識を通り過ぎて無意識にダイレクトに伝わるかも。「地味で分かりにくい作品なのになぜか心に残る」と言われているのはそのせいだろうか。もしそうなら、宮崎監督のやったことはある種の呪術だ。作品を通して観客に破壊と再生の疑似体験(カタルシス)がなされ、多くの観客の潜在意識に刷り込まれた「破壊と再生」のイメージが集合無意識に作用し、抑圧を抱えた不安と神経症の時代へ立ち向かう元気を促進する。
時代の抱える抑圧は、単なる個人の無意識領域にとどまらず、集合無意識にある。多くの人が意識化すべきものを無意識領域に抑圧していることで、個人の問題を越えた集合無意識レベルでの抑圧になっているのかも知れない。
彼の呪術が本格的に成功すれば、この時代の神経症と不安は癒される。
海(=生命の源)に例えられる集合無意識は、時代の特徴や時代の潮流(意識の世界における集団レベルでの生命活動)を作る源と言われている。この「不安と神経症の時代」、人々が抑圧の元から解放し意識化すべきものとは一体なんだろう? 向き合う準備は、出来ているか?

ナンバープレート「333」の意味?
実は、占い師の目から見て個人的に非常に面白いと感じた偶然(必然?)がある。劇中に出てくる宗助とポニョとリサの3人が乗る車のナンバープレートが「333」。「3」はヒンドゥー数霊術で木星の数字で、「膨張・発散・解放」と言う意味があるのだ。それが3つ並んでいる。ある意味「破壊と再生(=究極の解放)」のための三位一体。3人はそれぞれ「破壊と再生」において役割を担っている。「破壊を発生させる者(=ポニョ)」「破壊を一旦受け入れて次の段階への態勢を整える者(リサ)」「再生のために地上での居場所を引き受け破壊を終わらせる者(宗介)」。
しかもポニョがフジモトによるDNA進化逆行の抑圧を破り人間になりかけるシーンでは手足が3本指だった。もしや宮崎監督は、ヒンドゥー数霊術を知っておられるのだろうか? (数秘術の中では結構マニアックな占いなんだけどな・・・)

(もっとオカルトマニアックな解釈がお望みなら、333の車は戦後日本の開運を意識して建てられた東京タワーの暗示が隠れてるとでも言っておこうか? あの塔、いつかは呪術的にも役目を終える。だから車は乗り捨てられた)

※以下ネタバレ含む
作品の中で、フジモト自身もまた世界に行き詰まりを感じ、それを打開するために海の時代を逆行させて(進化を逆行させて)海を地上の支配者にする計画を作った。その準備として魔法の源でもある『命の水』をせっせと大事に貯蔵していた。しかし、ポニョが脱走中に全部飲んじゃった&海にばらまいちゃったということは、彼の計画では行き詰まりを打開できないのだろう。彼の「行き詰まり打開手段」は「解放」ではなく「抑圧」。破壊と再生の逆だったから。フジモトは「不治の源(不安と神経症が治らない原因)」っていう意味かも知れない。
人類が彼のように発想してしまう事こそが世界の行き詰まり(不安と神経症)の打開を、即ち「抑圧されたものを解放すること」を妨げるのかもしれない。
結局、抑圧を抜け出したポニョが世界と海を生まれ変わらせ行き詰まりの打開をやってのけた(海の女神曰く『素敵な海ね』)。そしてポニョの始めた「破壊と再生」の終了作業をしたのが、ポニョを真の姿から愛し身元引受人になった宗介。
己を抑圧し行き詰った世界に抑圧してきた「己の真の姿」を見せることで神経症の終焉と再生をもたらす。それが二人の世界の救い方。タロットなら20番の『審判』。

(より個人規模で思春期の少女達に起こりうる破壊と再生を描いた有名なアニメ作品が「少女革命ウテナ」かもしれない・・・)
(フジモトのため込んでた黒い命の水、何故か石油の暗喩にも感じる。石油は太古のプランクトンの死骸らしい)

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