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2007年7月 3日 (火)

シャーロックホームズの失われた冒険

以前から、「チベット人の書いたチベットが舞台のシャーロックホームズのパスティーシュ(模倣作品)がある」と聞いていた。ホームズは本家コナン・ドイルの書いた『最後の事件』という作品で宿敵モリアーティ教授と戦いのさなかに滝に落ちて以降、一度行方不明になっている。後の作品『空き家事件』の中でもちゃんと、「ライヘンバッハの滝に落ちてからの空白の2年間はチベットに旅行していた」と言っているらしい。その部分をチベット人が書いたというわけ。それがジャムヤン・ノルブの『シャーロックホームズの失われた冒険』
チベットが舞台のホームズパスティーシュは他にもいくつかあるらしいのだが、作者達があまりチベットに詳しくなかった。地元に詳しいチベット人が書いた作品は今回が初めてだそうだ。話がインドから始まることもあって、ラドヤード・キプリングの『少年キム』のネタもだいぶ入っている。
で、読んでみた。
・・・・・・・・・・
何と言うか・・・すごかった。いろんな意味で。シャーロックホームズをあまり読んだことのない私的には、面白かった。チベット人のメンタリティー、とりわけ「優れたもの、力あるものは国や民族を問わず自分達の中にとりいれる」というチベット人の精神的性質を見ることが出来た部分も、興味深かった。「推理小説」としてのシャーロックホームズを好む人達に受けるとは限らない気がするが、エンターテイメント性はかなりあるので「ホームズ」にこだわりがない人には十分楽しめるのではないだろうか?
内容の雰囲気を料理のレシピっぽく表現するなら、

1.『シャーロックホームズ』に『少年キム』の世界をみじん切りにして混ぜ、なじんだところで『インディージョーンズの始めの2、30分辺り』のみを投入してテンポ良く生地をこねる。
2.こねた生地にチベットの貴重で詳細な歴史と文化と精神性を丹念にすり込み、隠し味に『香港映画』を少々ふったら適当な大きさに分け、それぞれに『推理』と『オカルト』をぬり、シャンバラの氷河の入った冷凍庫にて凍らせる。
3.一時間後、凍ったその物体めがけて『インディージョーンズのクライマックス部』と『サザンアイズ5巻』を渾身の力で振り下ろして粉々に叩き割る。
※ハリウッドなどで市販されている『無理目どんでん返し』と『ご都合主義的展開』を使えば後始末は楽々です。
4.ヤクのバターで独特の香りが出るまで祈りを込めて神聖な気持ちで焼く。

この表現で分からない人は、実物を読んでみればいい。

実はシャーロックホームズの作者アーサー・コナン・ドイル(1859-1930) 、オカルト信奉者としても有名。『心霊術の歴史』という本も出している。19世紀末、最も有名な魔術結社『黄金の夜明け団』からの勧誘を受け、夜中に幽体離脱した結社のメンバーの訪問を受けたという。彼はまた、妖精の存在を信じていた。ドイルが関わった「コティングリー妖精事件」という実話をもとにした『フェアリー・テイル』という映画をご存知の方もいるだろう。彼は古くから妖精信仰を持つケルト系なのだ。
科学的・理論的手法が売りの推理小説を書くかたわら、オカルトにも親しむ。「イギリス人はオカルト好き」といわれているが、ドイルもそうらしい。彼に今回のチベット人が書いた作品を見せてみたい。多分怒らないと思う。

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