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2006年8月21日 (月)

絵を描いてる時の君が好き⑤

『友達でもいいんじゃないかな?』
もし、仮に二人が既に結婚し夫婦になっていて、家族になっていて、そして子供が生まれていれば。
互いの共通するテーマは絵のこと、子供のこと、家族(家庭)のこと、ライフスタイルのこと。最低四つにはなるだろう。生きがいは、もっと広くなる・・・。そしたら絵と恋心の二つのコードで寄り合わされた今の絆以上に、たくさんのコードがより合わさって、とても太くて強い接続が作られるに違いない。夫婦仲が今みたいに良ければ(多分良いだろう)、別れる必要はないなと思う。でも今は・・・・・・別に「恋人」じゃなくてもいい気がする。付き合ってなかった頃だって、絵のことでは今と同じくらい意気投合できていたのだ。お互いの絵で心地よくなることは、いつでもどんな時でも出来たのだ。A子は、B太に対する感情が、ときめくような感情よりも、もっと静かで安定した友情と敬意に変わっていくのを自覚していた。「大事な相手」であることは、今も昔もこれからも変わらない。B太の方はどうなんだろう・・・・・・?

「私たち、そろそろ友達同士でもいいんじゃないかな? ・・・友達同士の方がいいんじゃないかな?」
ある日、隣で寝ているB太にA子が言った。B太はもぞりと寝返りを打ってA子と向き合った。
「嫌いになったわけじゃないのよ。ただ・・・・・最近私たちが盛り上がるやりとりって、一般的なカップルっぽいことしてる時よりも、絵のこととか、感性に関することで盛り上がる時の方がやっぱり多いでしょ? ベタベタくっついてるわけでもないし、どっちかって言うと、親友同士で盛り上がるのに近いみたい。それなら、ムリに『恋人同士らしくしてなきゃ』って考えるよりも、親友同士の方が自然な気がするの」A子は自分の気持ちの移り変わりについても、率直に告げた。B太の中でも、性別に左右されない部分が好きだと言った。
B太はA子を見つめた。受身で優柔不断なタイプのA子が自分からここまではっきり言うのは珍しい(きっと『自分の絵』を描く以前のA子ならこんな態度はとらなかった)。今A子から聞かされた自分たちの傾向は、うすうす感づいていたことだから、ショックではなかった。
「恋人同士のままでも別にかまわないよ」
と、そのとき言おうと思えば言えたか? そう言えば、A子はまた優柔不断になるかもしれない。でも言わなかった。その方が楽だと気付いたから。「友達同士みたいだ」と言われたからといって今更意図的に「恋人らしさ」を演じても、マンネリ化するどころか、しらけるだろう。余計な気も使うし、疲れる。それでもムリに恋人同士を演じ続ければ、却ってテンションが下がり、友人ではなく恋人同士であることを証明するつながりは結局身体だけになってしまう。テンションを失った肉体関係は、一度でもテンションのある頃を知ってしまったからこそ・・・どこかがしらけたまま。この先もお互いが本当に価値ある関係になるには、もっと何か別の方法があるはずだ。A子の気持ちの変化は、B太にそう教えていた。そんな発想の切り替えをここですんなり出来る自信は全くなかったが。
未練は、ある。同時に、もしもA子が受身で優柔不断なのをいいことに、仮に未練だけでこのままずるずると関係を続けたって(続けられれば、の話だが)、必ず限界が来る。そうして別れたふたりが二度と親友には戻れなくなっていることもわかっていた。もつれたら、やがて摩擦でぷつんと切れる。その後二度と絆は結べない。さあどうする?
突然決断を迫られる事態は、覚悟や勇気などの心構えを作る隙を与えない。その分、決断のプレッシャーを作る隙も与えなかったのかもしれない。B太は思ったほど混乱しなかった。意外だな。結局、大切なものは何一つ失わないのかもしれない・・・
今ここでA子に同意すれば、自分が少しの間(絶望しない程度に)切なくて辛いだけで済ませられるだろう。二人とも本当に辛い結果になるより、よほどましだ。親友でも何でもいい。A子を失いたくなかった。交流を失ってはならないと、自分のどこかが告げていた。A子の女性的な部分だけでなく、性別に左右されない部分も、好きだったから。
不思議と喪失感はなかった。嫌われたわけではないと、わかるから。むしろその逆だ。少なくとも男の自分にとって、ライフワークである絵を通して結ばれた絆は、きっと単なるときめきで作られたものよりも深く強くなる。B太はそう自分に言い聞かせた。むしろ、付き合ったからこそ・・・その先の関係になれるのかもしれない。
そして、少しの間A子を眺めていた。優柔不断ないつもとは見違えるほどはっきりと告げた彼女は、自分を眺めるB太を穏やかに、しかし真っ直ぐ見つめ返した。とても神秘的に見えた。
こりゃダメだ。誤魔化そうが駄々をこねようが相手にもされないだろう。
・・・・・・このシチュエーションも、見納めか(きっと後で少し泣くぞ)。
沈黙がややあって、B太はA子の言うことに同意した。
A子は横たわったままにっこりと笑った。(よりによって、そんなにキレイに笑うなよ)
笑った直後が早かった。あれよという間に身支度をととのえ、トーストを焼き、コーヒーを入れる。
二人で黙ってそれをたべた。たべた後、
「・・・・・・それなら、これからもよろしく」「当たり前じゃん」

ドアの間からひらひらさせた手だけを最後に残して、A子は去っていった。
二人の恋は、その役目を終えた。

画家を目指している美大生のA子とB太は大の親友同士。まだまだ卵の二人は、将来は自分の「心地よさを創る力」を生かして、人々に作品で心地よくなってもらうという夢に向かって走り始めたばかりだった。二人に共通する目下の課題は、「次の恋愛をする」ということ。お互いに対して「いい人にめぐり合って、変な奴には引っかからなければいいけど」と、密かに心配しあう仲でもある。
                                                           
おわり

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