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2006年3月24日 (金)

人間を楽器に例えた恋の話③

箱の中で二人きり。何故か妙に緊張する。向こうもそうらしい。ああなんだろうこのプレッシャーのかかる空気は。
竪琴は雰囲気にたまりかねてさりげなく(実はかなり思い切って)話しかけてみた。
「普段同じ箱には保管されないのに、どうしたんでしょうね」
「ええ。珍しいですね」タンバリンも同意した。
そしてまた無言がしばらく続いた。

やがて、タンバリンが何かを決意したように姿勢を正し、竪琴に向き直った。「あの・・・」
竪琴は身構えた。弦が張り詰めてピン、と音を立てそうになった。
「一度でいいんです。・・・あなたの音をそばで聞かせていただきませんか?」
「・・・そう、ですね・・・」
この雰囲気の中で断って二人きりの箱で待機するのは気まずすぎる。それに、手持ち無沙汰だった。何かやってたほうがまだましだろう。今何か弾いたからって、その気が無いから再び二人きりで会うこともないだろう。
「じゃあ・・・」
竪琴はケルト族に古くから伝わる音楽を奏でた。伝説の世界で人知れず流れる小川の水。そこで戯れる妖精たち。そんなイメージができるような音楽を。
「・・・夢だったんです。すぐそばであなたの演奏を聞くのが」
シャラシャラと澄んだため息を吐いて、タンバリンはうっとりしていた。

今度は竪琴が決意して言った。
「あなたの音をしっかり聞いたことが無いから、よろしかったらちょっと聞かせて頂けたらと思うのですけれど、・・・ご面倒かしら?」
「い、いえとんでもない! ・・・やらせていただきます」
タンバリンはいくつかのバリエーションでリズムを叩いた。「パン」と言う音とシャラシャラする音を巧みに使い分けることで、同じリズムに異なる表情をつけることが出来た。ひらひらとリボンを翻して激しいリズムを叩いたり、星の瞬きのような澄んだ囁きを奏でることもあった。
竪琴は、タンバリンが実は情熱的でエキゾチックな音を秘めていることに気付いた。
意識せずに、竪琴からポロンと小さな音が漏れた。
その音を聞いて、タンバリンは落ち着いた声で言った。
「何か弾くなら、リズムの伴奏、つけましょうか?」
思ってもみない展開。竪琴は固まったまま返事が出来ない。しかし、タンバリンは最初の緊張とは打って変わって何でもないことように竪琴の反応を待っていた。まるで、時間通りに来るバスを待つみたいに。確信があるかのように。
その様子が竪琴を徐々に落ち着かせた。そして竪琴が答えた。
「お願い・・・します」


つづく

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